その日の朝、約束の時間の10分前に指定された場所に行った。
時間になっても彼女が現れないので、メールで確認しようかと携帯電話の画面を覗いていた。
時間を守らないような人ではないのにって思ったら、着信通知の表示が付いた。
「着いてますか」それだけだった。
「着いてます」と返信した。
「病院の玄関でお待ちしています。」と2通目のメールが着信する。
「それでは、行きます。」と短いメールを返した。
駅からたくさんの人が、その大学病院に流れていく。
僕には初めての病院だし中の様子もわからないので、その流れについていく事にした。
すると、病院の建物の壁の前に、小柄な彼女を見つけた。
まだ離れていたのに、「あっ、おはようございます。」と元気のよい挨拶が飛んできた。
いつものちょっと不思議な彼女の笑顔だ。
彼女にとって私服の僕を見るのは初めてのはずだ。
挨拶の「あっ」は、互いを見つけたことと私服姿を見たことへの小さな衝撃があったように感じられた。
しかし、そのことには何も触れず中に入りましょうと彼女は歩き出した。
受付周辺は人が溢れていた。
どうするのかと僕が迷っていると、彼女の手にはすでに整理券が握られていた。
待ち合わせ場所に来なかったのは、彼女が機転を利かして先に整理券を取っていてくれたからだったのだ。
その手際の良さに、さすがだと思わずにはいられなかった。
それでも、順番までは相当の時間を過ごさなければならない。
シートに腰掛けて呼ばれるを待つことにした。
彼女は、この大学病院のシステムを説明し始めた。
「初診のときは、あのカウンターで書類を書きます。今日は、他の科も受診しますか。
もしそうであれば、一緒に受付してしまうのがいいですよ。」
目的の科以外にも、どうぞ利用してくださいという気持ちのようだ。
「ここを利用することはよくあるの。」と尋ねる。
「外科・歯科・耳鼻科・脳神経外科とか、どんな些細なことでも、この病院に来てます。」
「絶対、ここがいいですよ。診察料も安いですよ。」
「大学病院に行ったなんて言うと何だか重病のようだね。こんなことで来ても良いのだろうか気になるよ。」
「全然、平気です。気軽に使って欲しいとここの先生も言ってくれますよ。」
きっとそれは彼女に対してだから、言ってくれるのだろうなって思った。
「綿雪さんは、何科にかかるの。」
「耳鼻科と歯科です。」
「そう、では、お互いに呼ばれたらあとはそれぞれだね。」
「整形外科まで一緒に行きます。そこで待っていてください。」
彼女は、徹底的に案内役をするつもりのようだった。
(この物語はフィクションです。)
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