「そんな悩みがあったんですか。吉澤さんって、何も悩みがないように思ってました。」
彼女は、意外だと言わんばかりの表情で言った。
「僕だって、悩みながらやっているんだよ。自分には無関係だと思っていたストレスを
最近はとても感じているし、胃が痛くなることもある。」と応じた。
実際、気難しい人に囲まれて身動きが取れなくなっている自分を感じているから、
思わずそんな気持ちを打ち明けることになってしまった。
そんなつまらない話でも、彼女はしっかりと受け止めてくれていた。
「私もやり難くて、でも、私は私らしくやろうと思ってます。」と彼女は気丈だった。
彼女の仕事に対する集中力は、同じ部内でも凄いと評判だ。
しかし、それが彼女には取っ付きにくい印象を持たせることになってしまっている。
つまらない陰口を、吉澤もときどき耳にしていた。
食事は、テンポよく進み、デザートが出てきた。
二人の話題は、恋愛と仕事のそれを交互に交えながら、展開していった。
「綿雪さんが、そんな風に男の人を見ているなんて、考えもしなかった。
路地裏での出来事なんて、少しだけどびっくりしたよ。どうして。」と吉澤は、前に聞いた話に突っ込んでいった。
「彼の私に触れたいという気持ちが、真剣だと思ったから。」と言った。
その答えに吉澤は、少なからず驚いた。
前に男女のもつれの相談を受けたことがあった。
その話とは、まったく逆の話だと思ったからだった。
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