「今日は、付き合ってくれてありがとう。」と吉澤がお礼を言った。
すると彼女は即座に言葉を返してきた。
「御馳走しようなんて、考えないで下さいね。」
先手を打たれた、と吉澤は感じた。
でも、その言葉のとおり受け取るわけにはいかないと、その時になったらと腹を決めた。
彼女の容姿は、目立ってどう見えるというわけでもない。
でも彼女の丁寧で明るくはっきりした人との接し方がとても好印象だ。
小柄な彼女に声をかけられると、正面から向き合わなくてはならない気持ちにさせられるから妙な気になる。
しかし、吉澤はそんな彼女をどちらかというと苦手にしていた。
でも彼女には不思議な魅力がある。
何人かの男性に声をかけられていますという彼女の言葉には、嫌味もないし気負いも感じられなかった。
彼女のその魅力に引き込まれてしまう男は、多いということだろう。
「今、告白されて迷っている人がいるんです。」と彼女が打ち明け、食事に誘われた日のことを話し始めた。
彼とは仕事で知り合ったらしい。
いつの間にか気が合うようになり食事に誘われるようになったと話した。
ある日の夜、食事の後、駅に向う途中の路地裏で二人は抱きしめあった。
それは、突然の出来事だったが、彼女は自然と受け入れていた。
「彼は、真剣なんだ」と、彼女はその瞬間感じた。
そんな時間の後、知っている店があるからと誘われたが、それは次回にと返事し別れた。
彼の言葉に彼女はただならぬ雰囲気を感じ確かめたくなった。
彼女は別の日に、そこが大人の時間を作る場所であることを知った。
しかしそれから毎日のように届くメールを読むのがとても楽しみであると打ち明けた。
「でも、時々間が空くんです。どうしてでしょう。」と彼女が持ちかけてきた。
「駆け引きなのかもしれないね。」と、少し煽るように返事をした。
吉澤は彼が誰なのかは知らない。
仕事で知り合ったというし、恐らく、顔見知りだろうと想像を巡らしてはみるけど、思い当たる人が浮かんでこない。
まだお付き合いしているというまで、関係は深まっていない様子だし、
彼女がどうしたいのか、心の内側をのぞいてみたいと思った。
駆け引きだと言えば、彼女がどうすればいいのか相談してくるはずだと考えた。
案の定、彼女は聞いてきた。
「それはどういうことでしょう。私はどうしたらいいのかわかりません。」
「彼だって、キミの気持ちが掴みきれていないのだろう。一方的なメールではわからないから
間を開けたりして、キミの反応を待っているのかもしれない。」
吉澤だって、何かはっきりとした確信があるわけではなかった。
また彼女の恋を応援してよいのか迷いがあった。
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